リウマチを分かりやすく
リウマチ(関節リウマチ)の患者さんに知って欲しいこと、理解して欲しいことをお伝えします。
抜けていることもありますし、省いたこともあります。細かいことやちょっとしたことを書くと切りが無いので、分量が増えすぎないようにしました。
ご質問などありましたら、ご自分の主治医に聞いて頂くか、当ホームページの質問コーナーにお寄せください。
Ⅰ.関節リウマチとは?
関節リウマチは、手や足の関節が腫れて痛む病気です。
ヒトの免疫システムは、体に外から入ってくる細菌やウイルスを攻撃する仕組みですが、リウマチは自分の免疫が自分の関節を攻撃してしまう病気(代表的な自己免疫疾患の一つ)なのです。この免疫の「間違い」が関節に炎症を起こして、行く行くは関節が壊れて変形してしまいます。
リウマチは男女比1:4と女性に多い病気で発病する年齢は40代・50代が多いですが、10歳未満から70歳以上まで幅広い年代でも発病します。
炎症が続いて壊れてしまった関節は元に戻らないため、生活にも支障を来します。ですので、早い時期からしっかりリウマチを抑える治療を受けることが大切です。
Ⅱ.リウマチの症状
1.関節の痛み
リウマチはあちこちの関節に炎症が起きる病気で、炎症のある関節が腫れて痛みます。
症状が出る関節は、顎関節、首(頸椎)、肩、肘、手首、指、股関節、膝、足首、足の指などで、左右両側で複数の関節が痛むことが多いです。
特に、手首、指の付け根、指の第二関節(PIP関節)、足首、足の指の付け根と言った、手足の先の方の関節に痛みが出やすいです。
なぜか指の第一関節(DIP関節)には症状が出ません。(DIP関節の痛みは変形性関節症と言う病気のことが多いです)
関節の炎症が続くと、徐々に軟骨や骨が壊れて関節が変形してしまいます。腕が上がらないとか、肘が伸びないとか、膝が伸びないなど、関節の動きが悪くなることもあります。指の変形で指を使う作業が難しくなったり、足指の変形で足の裏に胼胝(たこ)が出来て歩くのが痛かったりもよくあります。
2.朝のこわばり
関節の痛み以外によく見られる症状として「朝のこわばり」があります。「朝のこわばり」は、朝起きた時に手の指が固まって動かしにくいことです。
「朝のこわばり」に限らず、リウマチは朝に症状が強いのも特徴です。朝に肩の痛みが強かったり、足の指が痛くて床に足を着けないこともあります。
Ⅲ.リウマチの診断
リウマチの診断は、関節の症状と血液検査、必要に応じた画像検査を総合して判断します。リウマチと症状が似ている別の病気(リウマチ性疾患)との区別が難しいこともあります。
1.症状
上記の症状についてお話を伺い、関節の腫れと痛みや動きを診察していきます。
リウマチは関節の炎症が主体の病気なので、少なくとも1か所の関節の腫れがあることが必要です。
左右両側に症状があったり、複数の関節に症状があったり、手首、足首や手足の指に症状があったりすると「リウマチらしさ」が強くなります。
2.血液検査
血液検査はリウマチの診断にも治療にも大切なものです。
リウマチは、自分の免疫が間違って自分の関節に炎症を起こしてしまう病気なので、リウマチの免疫異常と炎症の程度を検査します。
リウマチの免疫異常(自己免疫)については、以下の2項目を確認します。
リウマトイド因子(RF、リウマチ因子)
ヒトのIgG(抗体の主なタイプでタンパク質)に反応する抗体です。リウマチ患者さんのうち約80%でリウマトイド因子が陽性となります。
リウマトイド因子が陽性だとリウマチの可能性が高くなりますが、リウマチ以外でも一定の割合で陽性になる方がいるため、それだけではリウマチと言い切れません。
抗CCP抗体
シトルリン化と言う変化をしたタンパク質に反応する抗体です。リウマチ患者さんのうち約80%で抗CCP抗体が陽性となります。
リウマチ以外ではあまり陽性とならないため、抗CCP抗体が陽性だと90%以上の確率でリウマチと考えられます。リウマチの診断に大変役に立つ検査です。
リウマトイド因子も抗CCP抗体も、リウマチ患者さんの5人に1人は検査で出ませんし、初期のリウマチではどちらの検査も50%くらいしか陽性にならないので、検査に出なくてもリウマチを否定することはできません。
関節の炎症の程度は、以下の3項目を調べます。
【CRP】
体内に炎症があると血液中で増えます。リウマチの関節炎でも高くなりますが、関節以外の物でも体のどこかに炎症があれば区別無く上がります。
【血沈】(赤血球沈降速度、ESR)
血液を固まらなくして置いておき、赤血球が沈んで出来る上澄みの長さです。体で炎症が続いている時などに高くなります。
【MMP-3】
関節で作られるタンパク質で、関節の軟骨を分解する酵素です。関節炎が強いと上昇します。
リウマチの治療中は定期的に血液検査を行いますが、目的は2つあります。
1. リウマチの状態の評価
「関節の炎症」で挙げたCRP、血沈、MMP-3の三項目で関節炎の強さを見ます。関節の症状と合わせて、リウマチが悪化していたら抗リウマチ薬の増量や追加などを検討します。
2. 副作用のチェック
リウマチの治療では、抗リウマチ薬を始めとして色々な薬を継続して使うことが多いため、薬の副作用を定期的にチェックすることが必要です。主に、白血球数、貧血、肝機能、腎機能、抗体(免疫力)などを確認しています。急なCRPの上昇は細菌感染も考えなければいけません。
リウマチの状態は関節の症状である程度分かりますが、副作用については血液検査を見ないと分からないことが多いので、血液検査は副作用のチェックの目的が大きいです。
3.画像検査
X線検査(レントゲン検査)はリウマチの画像検査の基本です。
関節の炎症が続いた結果として、軟骨や骨が壊されているかどうかをX線で調べます。軟骨は骨と骨の間にあって、軟骨が減ると骨と骨のすき間が狭くなります。また、骨が壊れて欠けた部分は「骨びらん」と呼ばれます。
リウマチの関節炎の特徴は、骨・軟骨が破壊されることですので、手や足のX線検査で骨びらんが見られればリウマチと診断します。
最近は関節の超音波検査(エコー)を行う施設が増えています。超音波検査の一番の利点は、一つ一つの関節の炎症の程度を見られることです。その他にも、関節の腫れを確認したり、小さな骨びらんを見ることが可能です。
MRI検査は、関節の炎症、骨の中の炎症、関節の腫れや靱帯の状態などを見ることが出来ます。
4.リウマチの分類基準
リウマチの診断は関節の症状と検査結果を総合的に判断するわけですが、一つの目安として関節リウマチの分類基準が用いられます。
この分類基準は、2010年にアメリカとヨーロッパのリウマチ学会が作った物で、最低1か所の関節の腫れ(関節炎)があることが条件で、小さな関節に腫れが多発するほど、血液検査でリウマチの自己抗体がある方が、炎症の数値が高い方がリウマチらしくなります。
「分類基準」は「診断基準」とは違います。他の病気が当てはまることもあるし、点数が6点に満たなくてもリウマチと診断することもあります。
Ⅳ.リウマチの治療
1.根本的な治療
リウマチは、発病してから時間が経つと病気の進行が止まりにくくなりますし、壊れてしまった関節は元に戻りません。ですので、早い時期からしっかりリウマチを抑える治療を受けることが大切です。
以前に比べると、新しい薬が出てきてリウマチの治療は進歩しています。最近のリウマチの治療目標は「寛解(かんかい)」となっています。(寛解とは、薬を使っていれば関節の痛みや生活の不自由が無いことです)
抗リウマチ薬はDMARDs(ディーマーズ)と略されますが、最近は新しい注射薬(生物学的製剤)と区別する意味でcsDMARDs(従来型DMARDs)と呼んだりもします。
DMARDsは、リウマチの根本にある免疫の異常を修正して、関節の炎症を抑えていく薬です。関節の炎症を抑えることで関節の痛みが軽減し、リウマチの進行(関節の破壊・変形)も抑えることが出来ます。
抗リウマチ薬は一種類の注射薬を除いて殆どが飲み薬で、リウマチと診断したらなるべく早く抗リウマチ薬を始める事が望ましいです。
抗リウマチ薬は基本的に速効性が無く、効果が出るのに1~3か月程度掛かります。このため、抗リウマチ薬はすぐに痛みに効かないと止めてしまったり、痛みが軽い日は飲まなかったりではいけません。決められた量を地道に飲むことが大切です。
抗リウマチ薬はヒトの免疫機能をいじる薬なので、比較的副作用が多いと言えます。薬は長く続けることになるので、血液検査などでの定期的な副作用チェックが必要です。
現在のリウマチ治療で中心的に使われる薬はメソトレキセート(MTX)と言う薬です。MTXは重要な薬なので、後でちょっと詳しく解説します。
MTXなど一種類の抗リウマチ薬で効果が不十分の場合は、複数の抗リウマチ薬を追加併用したり、生物学的製剤を追加したりします。
メソトレキセート(MTX)は免疫抑制薬の1種で、リウマチの治療薬の中心となっている薬です。
MTXは葉酸(ビタミンBの仲間)をブロックすることにより、体内で細胞の増殖や働きを抑えます。リウマチの関節では滑膜細胞やリンパ球などの細胞が活発化して炎症を起こしているため、MTXがこれらの細胞の活動を抑えることで炎症が鎮まって行きます。
MTXの飲み方はちょっと変わっていて、週1日だけ決まった曜日に内服します(翌日まで掛ける場合もあります)。MTXは免疫抑制薬ですから、間違って毎日飲むと効き過ぎてしまい、白血球がガックリ減ることで命に関わる感染症が起きたりします。
また、MTXは飲む量が増えると効果が強くなるので、副作用が大丈夫な範囲で徐々に量を増やしていきます。副作用で増量できない時や増量しても効果が不十分な場合は、他のDMARDsを追加併用したり、生物学的製剤を追加したりします。
以前に結核菌やB型肝炎ウイルスに感染した場合、ごく少量の結核菌や肝炎ウイルスがじっと潜んでいる場合があります。MTXにより抑えが弱まると、これらの結核菌やウイルスが一気に暴れ出して重症になる危険性があるため、MTXを始める前に結核菌や肝炎ウイルスの検査を行います。
MTXはリウマチの治療で頼りになる薬ですが、安全に使うために副作用について知っておくことも大切です。副作用には以下の様なものがあります。
● 気持ち悪い、吐き気、だるさ、口内炎、肝機能障害
これらの副作用を軽減するために、MTXを内服した翌々日などに葉酸を内服することが多いです(MTXと葉酸を同時に内服するとMTXの効果が弱まるため)。
● 間質性肺炎(かんしつせいはいえん)
MTXを内服すると2%位の頻度で発生します。空咳(痰の出ない咳)、息切れなどの症状から始まり、時として命に関わることがあります。
● 易感染性(いかんせんせい)
MTXは免疫を抑える薬ですから、風邪、肺炎、腎盂炎などの感染症にややかかりやすくなります。
● 血球減少症
血液中の白血球や血小板が少なくなることがあります。
● 脱毛
● リンパ腫
MTXは胎児に奇形をもたらす可能性があるため、妊娠を希望する場合は3か月(最低でも1生理周期)MTXを休薬することが勧められています。妊娠中もMTXは内服出来ません。
MTXを休むとリウマチが悪くなることが多いので、その場合はプレドニゾロン(ステロイド)を内服したり、妊娠に影響の少ない抗リウマチ薬に切り替えたりします。最近は生物学的製剤を使って妊娠中のリウマチを抑えることも行われます。
リウマチの関節では、免疫関連の細胞から出される「サイトカイン」という信号伝達物質が炎症を悪化させます。
炎症を悪化させるサイトカインであるTNFα(ティーエヌエフアルファ)やIL-6(アイエル6)に結合して、サイトカインの働きを押さえ込むのが生物学的製剤(バイオ製剤)です。炎症の悪循環をピンポイントで止めることが出来るので、リウマチの症状を強力に速く抑えることが出来ます。また、強力に炎症を抑えるため、骨・関節破壊の進行も強力に止められます。
生物学的製剤は、バイオテクノロジーを使ってサイトカインなどの狙った物質にだけ結合するタンパク質を薬にした物です。生物学的製剤は、薬の設計図である遺伝子を細胞に組み込み、細胞を大量培養してタンパク質を作らせ、薬になるタンパク質だけを取り出して精製するなど非常に手間とコストが掛かります。このため、生物学的製剤はどれも結構お値段が高くなっています。
また、生物学的製剤はタンパク質なので、口から飲み込むと胃腸でバラバラに分解・消化されてしまうので飲み薬にはできません。従って、生物学的製剤は皮下注射や点滴で直接体内に入れる必要があります。
生物学的製剤は(関節だけでなく)全身に作用して、免疫反応に必要な炎症も抑えてしまうため、肺炎などの感染症が共通の副作用として挙げられます。また、メソトレキセートの所でも挙げましたが、結核菌や肝炎ウイルスが体内に潜んでいないかのチェックが必要です。
現在、リウマチに使える生物学的製剤は大きく3種類に分かれます。
1. TNFαを抑えるもの
2. IL-6を抑えるもの
3. Tリンパ球(白血球の一種で免疫の指令塔)の働きを抑えるもの
どの薬もよく効きますが、どの患者さんにどの薬が効くかは使ってみないと分からない部分が多々あります。注射の間隔・やり方や副作用のリスクや価格などを総合して薬を選ぶことになります。
前述の通り、生物学的製剤は価格が高いのが大きな欠点ですが、最近はバイオシミラー(BS, 生物学的類似品)という選択肢が出てきました。
飲み薬で、特許が切れた薬と同じ成分で別のメーカーが作る薬を後発医薬品 (ジェネリック医薬品)と呼び、元の薬(先発品)よりも値段が安くなります。大雑把に言うと、バイオシミラーとは生物学的製剤におけるジェネリック医薬品の様なものです。
ただし、バイオシミラーは、タンパク質の設計図である遺伝子は先発品と同じですが、メーカー独自の高度な設備と複雑な技術で作られるため、先発品とバイオシミラーの成分(タンパク質) は完全に同じではありません。
しかし、バイオシミラーが先発品と同程度に効果があることは試験済みで、価格は先発品の60%~70%とかなり安くなっています。薬の費用の問題は避けて通れないことなので、効果が強くて値段が(比較的)安いバイオシミラーは有望な選択枝と言えます。
従来の抗リウマチ薬は飲み薬でcsDMARDsと呼ばれていますが、2013年から新しい飲み薬が出てきました。JAK(ジャック)阻害薬という薬で、現在2種類発売されています。
生物学的製剤が細胞の外で炎症をブロックするのに対して、JAK阻害薬は細胞の中で炎症を起こす信号をブロックします。このため、JAK阻害薬は生物学的製剤並みに効果が強く、俗に「飲む生物学的製剤」と言われたりします。
効果が生物学的製剤に匹敵するため、飲み薬のくせに生物学的製剤と同レベルに値段が高いのが一番の欠点です。また、JAK阻害薬の感染症のリスクは生物学的製剤と同じくらいですが、JAK阻害薬は帯状疱疹が出やすいのが二番目の欠点です。
2.痛みに対する治療
先に書いたように、リウマチの治療のメインは、各種の抗リウマチ薬で関節の炎症を抑えて関節の破壊・変形の進行を防止し、将来も不自由の無い生活を目指すことです。
しかし、現在の抗リウマチ薬は万能ではありません。限界や制限もありますから、「今ここにある痛み」を取る治療も必要なことが多々あります。
消炎鎮痛薬(NSAIDs:エヌセイズ)はいわゆる痛み止めで、色々な痛みに使われます。リウマチでは関節の痛みを和らげてくれます。一番有名なNSAIDsはロキソニンで、リウマチでもよく使われます。
NSAIDsを飲むと1~2時間で痛みに効いてきますが、リウマチが治るわけでは無いので関節の破壊・変形を止めることはできません。
NSAIDsには多くの種類がありますが、共通する副作用の一番は胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの胃腸障害です。胃腸障害の予防には、胃腸障害が少ないタイプのNSAIDsを使ったり、胃潰瘍の薬を一緒に内服したりします。二番目の副作用は、腎臓の血の巡りを減らすことによる腎機能低下です。高齢者は腎機能が落ちていることが多いので注意が必要です。
ステロイドとはステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン)のことで、ホルモンとは体内で血液中に分泌されて特定の器官の働きを調節する物質のことです。
抗リウマチ薬や消炎鎮痛薬で関節の炎症が十分抑えられていない時に使うと、ステロイドホルモンが全身の炎症を強力に抑えるので、関節の痛みが劇的に楽になります。
ステロイドの痛みに対する作用は強力ですが、抗リウマチ薬のように関節の破壊・変形を抑える作用(抗リウマチ作用)はありません。また、ステロイドホルモンは抗炎症作用以外にも様々な作用があり、抗炎症作用以外の要らない働きは多彩な副作用の元になります。
ステロイドの副作用は多岐にわたっていて色々な種類があります。その中でも、必ず出る副作用として 骨粗鬆症、白内障、動脈硬化が挙げられます。ステロイドは痛みに対して効果が強くて速いですが、「必ず副作用が出るけど、リウマチは治らない」薬なので、なるべく頼りたくないものです。
また、ステロイドホルモンは本来自分の副腎皮質が作るものですが、ホルモン剤を飲むと自前のホルモンが要らなくなるので自分でホルモンを作らなくなります。このため、急にステロイドの内服を止めてしまうと、必要なホルモンが急に作れないのでステロイドの欠乏症状を起こして危険です。
ですから、ステロイドは急に飲むのを止めたり、大幅に減量したりは絶対にしないで下さい。
上記の消炎鎮痛剤とステロイドの飲み薬で関節の痛みが十分に抑えられないことは少なくありません。そこで、特に腫れや痛みが強い関節に対して、当院ではステロイドの関節注射を適宜行っています。(顎関節から指の関節まで色々な関節に注射します)
ステロイドの関節注射は古くから行われている治療法で、抗リウマチ薬の大きな進歩につれてあまり行われなくなりました。日本でステロイド関節注射を積極的に行っている医療機関はかなり少なくなっています。
しかしながら、ここぞという関節の炎症に対してステロイド関節注射は速効性で強力な効果を発揮します。またステロイドの内服に比べれば、体を回るステロイドの量はかなり少ないので、先に書いたようなステロイドの副作用もあまり問題になりません。
リウマチの関節炎を抑える手立てとして、ステロイド関節注射はもっとリウマチ科で活用するべき物であると考えています。
確かにステロイド関節注射にもリスクはあります。関節は元々細菌がいない清潔な場所ですが、注射針で皮膚表面の細菌を関節内に押し込んでしまう可能性があります。関節内で細菌が暴れると化膿性関節炎となって非常に厄介です。関節注射で化膿性関節炎が起きる率は2万回から3万回に1回程度で、この率を高いと見るか低いと見るかですね。他にも、関節に針を刺しますので腱や神経を傷付ける可能性もゼロではありませんが、こちらも滅多に起きません。
同じ関節に頻繁にステロイドを注射していると、軟骨が荒れたり靱帯がもろくなったりすることが懸念されます。アメリカのガイドラインには同じ関節のステロイド注射は4か月以上期間を開けることとされていますが、当院では同一関節へのステロイド注射は3週間以上開けるようにしています。
Ⅴ.手術とリハビリ
1.リウマチの手術
リウマチで壊れてしまった関節は薬の治療では元に戻りません。そこで、関節の破壊・変形で日常生活に支障がある時に関節の機能回復のために手術を行います。また、関節の痛みを取る目的もあります。
1.人工関節置換術
関節の破壊による機能障害が強い時、関節を人工関節に入れ換える「人工関節置換術」が行われます。
人工関節は膝関節や股関節が多いですが、手指、肘、足首、肩などの物もあります。最近の人工関節は耐用年数が長くなっているので、比較的若い年齢でも人工関節手術を行いやすくなっています。
2. 関節固定術
壊れてグラグラした関節を動かないように固めてしまう手術です。親指や手首、足首などを固定することで重みを支えられるようになり、同時に関節の痛みも取れます。また、頸椎(首の骨)が緩んで脊髄が圧迫される場合は、第1頸椎と第2頸椎がずれないように固定します。
3. 関節形成術
リウマチで足趾(足指)の変形が進行すると、足の裏に胼胝(たこ)ができて痛みのため歩行が困難になります。足趾形成術は、足の骨を一部削ったり切り取ったりして足趾の変形を元に戻すことで歩きやすくします。
4. 腱移行術
リウマチでは、手指を引っ張って伸ばすための腱が手首の部分で切れると、指を引き上げて伸ばすことが出来なくなります。手で切れてしまった腱を他の腱に繋ぎ直して、再び指が伸ばせるようにするのが腱移行術です。
2.リウマチとリハビリ
リウマチの薬物治療では、なかなか薬が効かなかったり、薬の副作用や経済的理由で十分に薬を使えなかったりで、関節の破壊や変形が進んでしまうこともまだまだあります。
そこで「リハビリテーション」が大切になります。リウマチのリハビリテーションには運動療法、物理療法、作業療法、装具療法などがあります。
1. 運動療法
痛い関節を動かさずにいると、関節を動かせる範囲が狭まってしまい、周りの筋肉による支えが弱くなるため関節の負担も増えてしまいます。関節のリハビリテーションとしては、関節にゆっくりと力を加えて目一杯曲げ伸ばし、関節の動く範囲を広げる(勢いを付けると関節を傷めます)ことと、抵抗を加えながら関節を動かして関節周りの筋肉を強化することが基本です。
関節の運動はやり過ぎると関節の炎症がひどくなってしまうので、運動後に痛みが強まる場合は運動の強さを少し軽くします。
また、膝や足首が痛い時は、温水プールでの水中歩行がおすすめです。水の浮力が関節の負担を減らして、歩く時の水の抵抗が筋力強化になるからです。
2. 物理療法
強い炎症が無いのに、関節が固まって血の巡りが悪くなり痛みが続く時に行います。関節を温めて血の巡りを良くすることで痛みが楽になり、関節の動きも良くなります。日常生活では、ゆっくりとお風呂に入って温まり、軽く関節を動かすようにすると良いです。
ただし、関節が腫れていて動かさなくてもズキズキ痛む時は関節の炎症が強いので、炎症を鎮めるために軽く冷やすのが良いです。
3. 作業療法
日常生活での動作を練習して、日常生活が楽に送れるようにします。また、関節に余計な負担を掛けないようにして関節を保護する動作も練習します。具体的な関節の保護としては、小さい関節よりも大きい関節を使う、片手よりも両手を使う、座って出来ることは座ってするなどがあります。また、動作を楽にするための道具(自助具)も、介護グッズを含めて色々な物を活用することができます。
4. 装具療法
装具は体の機能を補助して関節の負担を軽減したり、動作をしやすくしたり、変形の進行を抑えたりする目的で使用します。頸椎カラー、手首の固定装具、足底板、膝関節装具(ニーブレイス)など、関節と目的に応じて様々な装具があります。
Ⅵ.日常生活のことなど
患者さん自身が自分の病気や治療法について理解して現状を把握することは、治療を継続する上で大切なことです。患者さんには、自分自身がリウマチと向き合って積極的に治療に参加して欲しいと思います。
日常生活でも以下の様な注意が必要です。
心身のストレスはホルモンや免疫のバランスに悪影響を及ぼすため、リウマチの症状が悪くなります。心身のストレスをなるべく避ける生活が理想です。体のためにも心のためにも、適度に休養を取り十分な睡眠を取りましょう。
明らかにリウマチが良くなる食べ物はありませんし、食べてはいけない食べ物もありません。色々な食材をバランス良く摂るようにしましょう。
リウマチでは筋肉の量が減りやすいので、関節の機能を保って関節を保護するために良質なたんぱく質を摂るように心がけましょう(肉、魚、卵、乳製品)。
体重が増えると膝や足首の負担が増えるのは言うまでもありません。食事などのカロリーの摂り過ぎを避けて、定期的に体重を測りましょう。
「リウマチとリハビリ」の所で触れましたが、関節が動かせる範囲と関節周りの筋力を保つため、適度に体を動かすようにしましょう。
歩く能力を維持・改善するためには、プールでの水中歩行もお勧めです。
関節の負担を減らすことは、その場の痛みを軽くしたり、後々の変形を防いだりする効果があります。
トイレは和式より洋式の方が立ち上がりが楽ですし、補高便座で座面を高くすると更に膝の負担が減ります。お風呂の椅子も座面の高い物が楽です。
蛇口は「ひねる」タイプをレバーハンドルにすると手首の負担が減ります。ドアノブも丸形の物よりもレバーハンドルの方が手首が楽です。
リウマチでは首の骨(頸椎)の関節にも変化が出て、1番目と2番目の頸椎が緩んでしまったりします。首を前に倒すと緩んだ頸椎同士のズレが大きくなるため、首を前に深く曲げる姿勢は避けた方が良いです。首の前屈を避ける意味では、枕も低い物の方が良いです。
重い物を持つ時は、片手よりも両手を使うようにしましょう。料理の時も、片手鍋より両手鍋を主に使うのが好ましいです。
関節の負担を減らすためには、様々な自助具を活用すると良いでしょう。日本リウマチ友の会ホームページでの自助具紹介、介護用品販売店やwebサイト、百円ショップなどで色々な自助具が手に入ります。
風邪などの感染症は、免疫のバランスを崩してリウマチの症状が悪くなったりします。また、リウマチの治療は免疫を抑える治療が多いため、リウマチ患者さんは感染症にかかりやすかったり感染症が重症になりやすかったりします。
外出後は手洗いやうがいを行い、風邪の季節は人混みを避けるようにしましょう。バランスの良い食事や十分な睡眠・休養は、感染への抵抗力を保つためにも大切です。
「血液検査」の「リウマチの免疫異常」の所で抗CCP抗体について触れましたが、抗CCP抗体はリウマチの発病に重要な関わりを持っています。タバコは肺でシトルリン化蛋白を増やすため、タバコはリウマチ発病のリスクになりますし、リウマチを悪化させる要素になります。リウマチ患者さんに禁煙は大事です。
歯周病を起こす細菌の一種(ポルフィロモナス菌)が歯肉部でシトルリン化蛋白を作るため、歯周病もリウマチに良くありません。リウマチ患者さんには歯周病ケアも大切です。
リウマチ患者さんのリウマチの具合は色々な要素で変動しますが、季節や天候とも関連します。寒い時期に関節の動きが悪くて痛む人、夏の時期の冷房に当たると痛みがひどい人、「木の芽時」から5月初め頃に調子が悪い人など個人によって悪い時期があります。
天候によるリウマチの悪化もよく見られて、気圧の低下が関係するようです。雨が降る前の日や台風が来る1,2日前など、気圧が下がっていく時にリウマチの痛みが強くなる方が多いです。
関節の冷えを避けて、お風呂でも関節を温めて血行を良くすると、炎症や痛みを起こす物質が関節から運び出されていくため、関節の痛みが和らぎます。
リウマチで多くの場合は関節を温めるのが良いですが、関節の炎症が強くて腫れ上がって熱を持っているような場合は、温めて血のめぐりが強くなると炎症がより強くなります。そんな時は、温めずに軽く冷やしてあげると炎症が軽くなります
アルコールの飲み過ぎは炎症を強める可能性がありますし、薬によってはアルコールと一緒に肝臓に負担を掛けることもあります。
飲み過ぎは避けるのが望ましいですが、適量のアルコールはリラックス効果もありますので禁酒する必要は無いでしょう。
Ⅶ.公的支援制度
リウマチは生物学的製剤などの高い薬が使われますし、治療が長期に渡り薬の種類も多くなりがちですから、お金(医療費)の話は切実な問題です。また、関節の痛みや機能低下により日常生活にも不便を生じることが多いです。
ここでは、リウマチ患者さんが医療費や生活補助に関して利用できる公的支援制度を簡単にご紹介します。詳しくはそれぞれの窓口にお問い合わせ下さい。ただ、複数の制度があり内容も複雑なので、病院の「医療相談室」やお住まいの地域の「地域包括支援センター」でご相談されると良いと思います。
1.医療費支援
1ヶ月に支払った医療費の自己負担が一定の限度額を超えると、超えた分が保険者から払い戻される制度です。限度額は所得、年齢、保険者の種類によって異なります。
1年のうちに限度額を超える月が3回あると、4回目から「多数回該当」と言って限度額が下がります。
1ヶ所での支払い額だけでなく、薬局での薬代や複数の医療機関での自己負担を月当たりで合計して限度額を超えれば申請できます。
同一世帯の家族で同じ健康保険に加入している場合は、医療費の支払いを合算して申請できます。
保険者に「限度額適用認定証」を交付してもらうと、医療機関での支払い自体が限度額までで済みます。
【お問い合わせ】
国民健康保険と後期高齢者の方は市町村、その他の方は加入している健康保険組合への申請となります。
健康保険組合の被保険者(サラリーマン、公務員など)が病気やけがで働けなくなった時に、標準報酬の3分の2が支給されます。支給期間は最大1年6ヶ月です。
【お問い合わせ】
加入している健康保険組合へ請求書を提出しますが、まずは職場の健康保険担当者に相談して下さい。
家計を1つにする家族で、1年間の医療費の支払いが10万円を超えた場合、超えた分を確定申告で申告すると税金が戻って来ます。
医療費の他に入院・通院の交通費なども医療費控除の対象となります。領収書やレシートはしっかり取っておきましょう。
【お問い合わせ】
お住まいの地域の税務署
国で、「特定疾患」いわゆる「難病」に対して「特定疾患治療研究事業」を行っていて、医療費の全額または一部が公費で助成されます。
多くの膠原病・リウマチ性疾患が難病に指定されていますが、関節リウマチは対象ではありません。
ただし、関節リウマチの中で「悪性関節リウマチ」の場合は対象となります。悪性関節リウマチとは関節以外の臓器にも症状が出るリウマチのことで、関節の症状がひどいリウマチのことではありません。
【お問い合わせ】
保健所での申請となりますが、まずはご自分の診断について主治医にご確認ください。
2.福祉制度
都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けると、身体障害者福祉制度が利用できます。
身体障害者手帳は障害の程度に応じて1級から6級の種類があります。等級と自治体によって異なる部分がありますが、多彩な援助を受けることができます。
1級と2級の場合は、医療費の自己負担の助成を受けられます。
その他の主な物として、所得税・住民税・相続税・自動車税の減免、 NHK受信料の免除、列車運賃・飛行機代の割引、タクシー料金の割引、有料道路通行料の割引、携帯電話料金の割引、公営住宅の優先入居など(他にもあります)。
【お問い合わせ】
身体障害者の種別で、関節リウマチは「肢体不自由」に含まれます。お住まいの市区町村役所の福祉担当窓口へお問い合わせください。
障害者総合支援法は、障害のある方の自立した日常生活と社会生活を支援するための法律です。
この法律では、身体障害者手帳はもらえないけれども一定の障害がある指定疾患の患者さんも対象となっていて、関節リウマチも対象になっています。
支援内容は 「自立支援給付」と「地域生活支援事業」から成り、障害を軽減する医療の給付、ホームヘルパーによる入浴、排泄、食事などの介護、生活能力向上のための「自立訓練」、「日常生活用具の給付」、各種相談など幅広い支援が受けられます。
【お問い合わせ】
お住まいの市区町村役所の福祉担当窓口への申請から、障害区分の認定調査が行われます。
介護保険は高齢者(65歳以上)のための制度ですが、国が定める特定疾病の患者さんの場合は65歳未満でも利用することができます。
関節リウマチも特定疾病に入っているので、リウマチ患者さんは介護保険で訪問介護や訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリなどのサービスを利用することができます。
【お問い合わせ】
お住まいの市区町村役所の介護保険課や福祉事務所に申請して、要介護度(要介護1~5、要支援1,2)の判定調査が行われます。
国民年金または厚生年金の加入者で、病気やけがによって日常生活や仕事が困難となった場合に手当金が支給されます。
「障害認定基準」の程度によって金額が決まります。
【お問い合わせ】
厚生年金の場合は社会保険事務所、国民年金の場合は市区町村役所、共済年金の場合は各共済組合へお問い合わせください。